旅行記 エジプトで外乗 馬で砂漠を思い切り駆ける

 馬で砂漠を思い切り駆けたいというのは、子供の頃からの夢だった。

 最大の影響は『アラビアのロレンス』だったと思うが、ベドウィンやアラブの人が砂漠を馬で駆けている姿を写真などで見るたび、憧れはつのった。

 何年か前に、エジプトの砂漠を馬で走る外乗ツアーがあるというのを発見。行きたいと思ったが、難関が。

「最低施行人数2名」

 要するに、馬に乗れる同行者といっしょに予約を入れないといけない。

 しかし、うちのつれ(パートナー)はつねづね「この人生では、エジプトには興味はない」と言い切っており、度重なる説得や圧力にも関わらず、頑としてエジプト方面へ腰を上げる気はない。

 なので、この件については長期の計画を練らねばならないと思っていた。

 この10月、エジプトに2度目の滞在をした。その6年前に半月、今回はアレクサンドリアを足して半月ちょっとだ。(旅行の経過と旅行のアウトラインは別記事「アルケミストの旅 異端のエジプト旅行」で)

 滞在中、異端のエジプト学者が率いる特殊なツアーに加わってあちこち回ったのだが、そこは欧米人のグループ。どうしても、旅の合間に砂漠でラクダに乗りましょうという余興を避けては通れない。

 私は前に来た時にすでに、1度は砂漠の中の寺院跡を訪れるのに、2度目はシャルムエルシェイクでベドウィンのキャンプに泊まった時に乗っている。ラクダは確かにかわいくて好きだし、高い背中でまったり揺られるのも楽しいが、馬に乗るほどの楽しみはない。

 と、そこで現地ガイドから、天から降ったような提案が。

「ラクダではなく馬の方がいい人は、馬も用意できます。希望者は?」

 もちろん元気よく手を上げる(笑)

 手を上げた後で、観光客向けの引き馬だったりしたらどうしようかなと思ったが、そうでない可能性に賭けることに。



 現地に着いてみると、おお! 一応乗馬センターらしい趣が。どうも、オーナーが馬好きのサルタンで乗馬センターを営み、副業で観光客向けのラクダの斡旋をしているようだ。

 ラクダはどう見てもセンターのものというより、その辺から空いているのをかき集めてきた感じ(笑)

 しかし丘の上に引き出されている馬を見ると、これはいけそうだ。なぜかこのタイミングでセンターの出店で買い物を始める他の参加者を置いて、さっさと丘に登る。

 よく手入れされた美しいアパルーサを見つけ、かまいにいく。おでこを撫でてやると、目を細めるさまがなんとも可愛らしい。

 そこへ馬係がやってきた。この状況では、選択肢の多い早めのうちに馬を当ててもらった方がいい。

「馬を選んでもいいか?」

「お前は上手な乗り手か?」

 ここで日本的に謙遜して「まあまあ」とか言ってしまうと、のろい馬を当てられるので、「そうだ」と全面肯定(笑)

 「では、この馬がいい」と指さされたのは、灰色がかった細身のアラビアン。乗っても大丈夫かと思うくらい細くて骨張っている。鞍は手縫いのお手製風だし、鐙(あぶみ)はぺろんとした金属の板ですが(笑)。

 「乗ってみろ」と言われて騎乗すると、それだけで馬が興奮し始める。すでに走る気満々で、しきりに「まだか? まだか?」と問うような様子をする。

 アラブ馬は基本的にみんなそうだが、血が熱い。そういう意味では典型的なアラビアンのようで、この興奮具合からして、走るのが大好きで、そして走り出したら止らない馬と見た。

 私は馬の中ではアラビアンが好きだ。血の熱い性格も、時に人間を出し抜く頭のよさもいいし、何よりこちらの思いをテレパシーのように感じとってくれる感応力がすごい。気が合った馬なら、手綱を捌かなくても本当に思った通りに動いてくれる。

 (同じくらい感応力があると思うのは日本の道産子。道産子は性格が温厚でアラビアンとはまったく違うが、好きな馬だ。)

 他の乗り手の準備が整い、少し歩いたり軽く駆けたりして、同伴のガイドが乗り手を品定めしているのがわかる。そうしてOKが出たので、駆け足。

 細身なのは、脂肪をすべて落として体重を絞り込んだボクサーと同じか。外見からは想像もつかないパワーで、蹄の沈む砂を滑らかに踏んで、息も切らさず一気に長い砂丘を駆け上がる。

 アラビアンのすらりと美しい体形からは思いもよらぬパワーと持久力は、北カリフォルニアで耐久レース型のトレッキングをした時にとことん経験したのだが、やはりすごい。

 しばらく走ったところで、ラクダの一隊が追いつくのを待ちながら、馬を休ませる。

 砂丘の向こう、遥か遠くにそびえるギザのピラミッド群を馬の背から眺めるのは、思わぬところで夢をかなえてしまった喜びと相まって、ちょっとした感慨。

 帰り道は、アラビアンの性格と馬の帰巣本能が合わさり、さらにギャロップのスピードが上がる。砂漠の太陽の下を砂まみれの風に吹かれながら、走る走る。何の障害物もない砂漠を、ひたすら馬まかせに走る幸せ。

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