ヒーラーの道のりとトランスパーソナル ヒーリングの本質は「ともに生きたい」という、私たちの生命としての本質的な欲求

(日本トランスパーソナル学会誌に寄稿した文章に加筆)


 私は1995年にアメリカの大手ヒーリングスクールを卒業し、ヒーラー、そして教師として仕事を始めて以来、アメリカと日本という正反対のように異なる二つの文化の間を行き来しながら、ハンズオン・ヒーリングという「普通の世界」と「目に見えない世界」をつなぐ領域でクライアントと向き合い、また学生を教える仕事に携わってきました。

 その経験を通して、「トランス・パーソナル(個を超える)」ということについても、さまざまな角度で向き合う機会を与えられてきました。

 ハンズオン・ヒーリングはホリスティック医療の一環として、人間の生命エネルギー場(ヒューマン・エネルギー・フィールド)を通して肉体と心に働きかけ、癒しを促す療法です。

 西欧文化圏にはもともと、「laying-on-of-hands(手当てによる癒し)」の伝統がありますが、この伝統をさらに科学とも相容れる形で発展させたのが近代のハンズオン・ヒーリングです。

 私が1999年から現在までハンズオン・ヒーリングの分野で師事しているロザリン・ブリエール博士(米国国立衛生研究所「近代代替医学発案委員会」元顧問)は、アンドリュー・ワイル博士との協力のもとにアリゾナ州立大医学部の講師として医学生を対象に教鞭をとり、またジョンズ・ホプキンス大医学部付属のケネディ・クリーガー研究所、シカゴ子供記念病院などで臨床リサーチに携わっています。アメリカのハンズオン・ヒーリングは、ゆっくりとですが一般医学界にも足場を築いています。

 近代ハンズオン・ヒーリングでは、肉体を包みそれを超えて存在する「場」として、ヒューマン・エネルギーフィールド(生命エネルギー場)を考えます。このフィールドは、私たちの心と肉体の状態や健康度をそのまま反映し、また心と体の関わりを媒介する性質を持ちます。

 心身統合医療が提唱するように、心の状態が肉体の健康に影響を与え、肉体の状態は心の在り方に影響を与える。日本でおなじみのことわざを使えば、「病は気から」。東洋医学の考え方でも、「気」のバランスが心身の健康の土台であり、病気は肉体に現われる前に「気」のバランスの乱れとして現われるとします。

 ハンズオン・ヒーリングでは、そういった心と体の関わりを媒介するのがヒューマン・エネルギーフィールドであり、このフィールドに直接働きかけることで、心と体の健康に影響を与え、それが本来あるべき健全な状態とバランスを取り戻すのを助けることができると考えます。訓練されたハンズオン・ヒーラーとは、このような形で健康の維持と回復の手助けをする専門家です。

 現代西洋文化圏では、人間の基本単位は個人の肉体であり、肉体のバウンダリ(境界)が個人のバウンダリであると考えますが、ヒーリングでは、その個人の肉体のバウンダリを超え、人間やすべての生命をより普遍的な「場」(ユニヴァーサル・エネルギーフィールド、いわゆる宇宙に遍在するエネルギー、「気」「プラナ」)に結びつけるという視点を持ち、それを治療の方法論の土台とします。

 ハンズオン・ヒーリング療法のユニークさは、多くのトランスパーソナルなセラピーがもっぱら内的な変化と成長に取り組むことを中心的な手法とするのに対し、エネルギーを媒体(あるいは「言語」、「ツール」)として、肉体と心に働きかけていくところにあると思います。

 ハンズオン・ヒーリングの影響も、心理療法などと同じように、何年もの長い期間にわたる変化として経験されることもあります。他方、ヒーリングの影響が比較的短い時間の間に、目に見える形で確認できるようになるケースも多くあります。

 目に見えない生命エネルギー・フィールドに働きかけることで、心の面だけでなく、肉体にも具体的な変化が引き起こされ得る。このような経験は、目に見え手に触れる「現実」、科学機材で測定できる物質的な「現実」だけが現実だとする現代西洋科学の枠組みにはめられて育ってきた私たちの心に、その枠組みを超えて引き伸ばされる機会を与えてくれると感じます。

 トランスパーソナル思想が見る「個を超える」ことの可能性を、別の角度から示してくれるものといってもいいでしょう。

 ハンズオン・ヒーラーの訓練自体は、トランスパーソナルな分野で言われる内面の旅路と密接に結びついています。それは、人間の心(内面)と肉体(外面)を媒介するエネルギーフィールドを制御し、働きかけるためには、ヒーラー自身が自分の内面を変化させ、変容させてゆくことが主要な訓練の道筋であるからです。専門家としてのヒーラーの訓練が長期間のもの(一昔前で言えば徒弟制の修業のようなもの)になるのは、このことと関係しています。

 古代アルケミー(錬金術)の方法論は、術者が修業を通して自己の内面を制御することを覚え、それを通して世界ないし自然の力に働きかけるというものです。ヒーラーとしての旅路は、そのような古典的な「魔術師」(内面の変容を通して自然界に働きかける力を身につけようとする者)の旅路にもなぞらえることもできます。

 現代のヒーラーが行う「修業」は、もちろん、昔の魔術師やシャーマンの物語に描かれているようなものそのままではなく、たとえば心理療法が、自己の内面を整理し磨き上げるための大切なサポートとなっています。

 心理療法を通して感情の幼い部分を癒し、成長させ、人格を成熟した大人の人格に育てていく。こうして築かれた人格と自我の力を、魂が変容していくための「器」とする。この器を、魂のアルケミーの変容プロセスの器と見ることもできるでしょう。ヒーラーとしての成長の旅路は、魂のアルケミーの旅路でもあります。

 同時に、旅路を通して自分自身を癒すことで、他者を癒す手助けができるようになるという、ユング心理で言う「傷ついたヒーラー」のアーキタイプも、そのまま生きています。

 ヒーラーを志すことは、時間をかけてこういった旅路を歩むのに同意すること。過去28年、ヒーリング分野での教育に携わることで、私は一人一人の学び手が、それぞれの魂にユニークな形でヒーラーとしての道のりを歩んでいく、その同伴者ないし「目撃者(Witness)」となる機会を与えられてきました。

 その経験から、他の生命の癒しの手助けがしたいと真剣に望む人は、必ずしも意識していなくとも、最初は知らず知らずであっても、やがてこのような自己変容の旅路へと足を踏み入れていくものであると思っています。「傷ついたヒーラー」のアーキタイプは、世界中の神話伝承で見られる、もっとも普遍的なアーキタイプの一つです。

 ヒーラーとしての仕事においても、単純に痛みを取り去ったり、病気症状の改善を求めて来られるクライアントもありますが、最初から精神的な形で自分自身を見つけるための手助けを求めて来られる方もあります。いずれの場合も、最終的には、クライアントにとって「より本来の自分」「より本質的な自分」「健康で、全体的な自分」に帰って行くための旅路の手助けを求められているのだということを、クライアントの方々と接しながら、いつも思います。

 トランスパーソナルという視点は、「個」は超えられるためにあるということを思い出させてくれる、優れた道しるべです。

 同時にその根本にあるのは、「ともに生きたい」という、私たちの生命としての本質的な欲求であると思います。

 「ともに生きたい」という思いは、「ともに健康にありたい」「ともに幸せに、充実して生きたい」という思いにつながります。また、人間という種の境界を超えて、動物や植物など他の生命とも「幸せに生きること」を分かち合いたいという思いにもつながります。

 他者の痛みを軽減させ、病気症状を改善する手助けができること、あるいは他者がその道のりを歩むための手助けや、道しるべを示してあげることができた時、私たちは深い満足感を感じます。それは単純な個人的満足感ではなく、まわりの生命と、ともによりよく生きる経験を共有できたという、生命にとっての根本的なよろこびの感覚です。

 このような感覚をつねに忘れずにあることで、トランスパーソナルという視点にも、人肌の暖かみがもたらされるのではないか。そう考えています。


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